台湾の最新テクノロジーを発信する万博パビリオン「TECH WORLD」:“共好”の精神で、世界と共に歩む
2025年大阪・関西万博で、台湾の最新デジタル技術を紹介するパビリオン「TECH WORLD(テック・ワールド)」。民間企業としての出展ではあるが、世界最先端の半導体技術などに加え、台湾の土地に根ざした自然や文化、温もりある人々の生活が伝わってくる。
台湾発の民間パビリオン
大阪・関西万博は4月13日、人工島・夢洲(大阪市此花区)で開幕した。会場のシンボルで、世界最大の木造建築「大屋根リング」の内側には、大会テーマの「いのち輝く未来社会のデザイン」を体現するシグネチャーパビリオンと海外パビリオンが立ち並び、新しい技術や各国特有の文化などを発信。来場者が長蛇の列をなしている。
大屋根リングの外周を取り囲むエリアは、EXPOホールや日本館といった主要施設のほか、13の民間パビリオンが軒を連ねる。三菱や住友、パナソニックなど日本を代表する企業グループがそろう中、少し異色なのが「TECH WORLD」館だ。壮麗な山の稜線(りょうせん)が重なるような目を引くデザインだが、企業名は掲げておらず、出展社を調べてみても「玉山デジタルテック」という聞き慣れない名である。
平日の午前中にもかかわらず、長い列ができていたTECH WORLD
このパビリオンに展示されているのは、実は台湾の最新テクノロジー。台湾は万博を監督する博覧会国際事務局(BIE)に加盟していないため、台湾貿易センター(TAITRA)が設立した民間企業が出展する形をとっている。
ちなみに社名に冠する「玉山(たまやま)」は、標高3952メートルを誇る台湾最高峰「玉山(ぎょくさん)」のこと。島の面積の7割を山地が占めることから、パビリオンの意匠も美しく雄大な山々をイメージしたという。そして「TECH WORLD」の頭文字は、台湾の国名コード「TW」になるのだ。
エントランスの中央に飾られるオブジェは、山が連なる台湾島の地形を想起させ、印象的な深い青色は太平洋に浮かぶ島の姿を象徴している
台湾の生命力を描く没入型シアター
TECH WORLDのコンセプトは「共好(ゴンハオ/ガンホー、“共に良くなる”の意)」で、館内には「生命」「自然」「未来」をテーマにした3つの劇場がある。来場者はエントランスでリストバンド型のデバイスを装着。心拍数などを計測しながら展示を巡っていく。
最初の「ライフ劇場」の中央には、巨大な円柱体スクリーンがそびえ立ち、その周りをASUS製のタブレット端末560台が取り囲む。映像に登場するのはタイワンツキノワグマ、タイワンジカ、タイワンキアゲハなど台湾固有種だ。音や場面にシンクロしてタブレット自体が揺れ動き、ディスプレイ映像も変化していくので、まるで巨樹を彩る「デジタルの花」のよう。映像終了後、端末に表示されるチョウをスワイプすれば、円柱スクリーンの中を自分が放ったチョウが飛び回る。
ネイチャー劇場では、高精細4K映像を360度の円弧状の壁に投影。スモークによる演出との相乗効果で、玉山を代表とする雄大な自然に没入できる。
フューチャー劇場は「半導体の壁」。われわれの生活では、スマホを肌身離さず、家電を使用したり、車や電車で移動したりするので、少なくとも1日に1000個以上の半導体が関わっていることを表現している。インタラクティブセンサーを内蔵したLEDディスプレイに触れると、半導体の後ろに隠れていた未来社会の立体映像が流れ、臨場感をもって迫ってくる。
無機的な半導体の背後には、血の通った人々の生活があると実感する展示
自然や歴史がデジタル技術と融合
シアターをつなぐ空間にも、デジタル技術や台湾の歴史、文化が盛りだくさん。台湾南部の特産品・胡蝶蘭(こちょうらん)が並ぶ「ランの道」では、マイクロLED技術によって、3Dのチョウが花の周りを精霊のように舞うのを裸眼で楽しめる。
縦長の8Kモニターが並ぶ「AIギャラリー」では、台湾の有名画家たちが描いたアート作品がズラリ。海と山が織りなす島ならではの豊かな自然から、日本統治時代の建造物や高層ビルがそびえる都市風景、祭りや伝統芸能に取り組む人々の姿まで、高度な画像処理や暗号化技術によって、精彩に映し出される。
最後のコーナーではリストバンドに記録された心拍数曲線を読み取り、AI解析によって一番心が動かされた展示テーマや、台湾旅行で最適なスポットを教えてくれる。
デジタル分野で温もりのある連携を進めていく
TECH WORLDの展示で印象的なのは、最先端の半導体技術より、むしろ台湾の自然や歴史、人々の生活だった。それらが培ったソフトパワーがテクノロジーと融合することで、現代、そして未来の台湾を形作っていくと語りかけてくる。あいまいな名称の展示館ではあるものの、来場者が目にするのは「名もなき島」ではなく、テクノロジーを通じて世界と対話しつつ、人間らしさで技術を包み込もうとする「温かい島」なのだ。
開幕の1カ月前には、日本の外務省が台湾側に「民間企業による出展であることを明確化するように」と申し入れるなど一悶着(ひともんちゃく)あったが、来場者からの評判は上々。4月22日の開会式では、台湾貿易センター会長で玉山デジタルテック名誉会長の黄志芳(こうしほう)氏が「万博は国境や、人と人の壁を超える場所。今回出展できたのは、本当に光栄なこと」と感慨深げだった。
台湾の半導体企業・台湾積体電路製造(TSMC)は、すでに九州・熊本で大規模工場を稼働させ、米国やドイツでも新工場を建設中。他メーカーも海外への分散投資を進めている。
黄氏が「TECH WORLDパビリオンは世界と共に前進していく。私たちは、この美しい景色と人文風情を世界と共有しながら、科学技術においてパートナーと協力していきたい」と力強く述べたように、このパビリオンは台湾と世界との「共好」において大きな役割を果たすだろう。
テープカットには、日本国際博覧会協会の髙科淳副事務総長なども参加
撮影=ニッポンドットコム編集部
バナー写真:台湾の雄大な山々をモチーフにした「TECH WORLD」パビリオンとライフ劇場のデジタル展示
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