【ドン・キホーテ】訪日客が絶対訪れる事情 世界が愛する「DONKI」
多くの日本人が親しみを込めて「ドンキ」と呼ぶディスカウントチェーン「ドン・キホーテ」。魅力は安さだけではない。独特の品ぞろえ、店づくりで瞬く間に日本中に広がった。今や訪日客にも広く知られ、「Must Visit Spot(絶対訪れるべき場所)」となった。彼らにとって「ドンキ」の魅力とは?
「昨日来たけど、また来る」
言うまでもないが、「ドンキ」はスペインの文豪・セルバンテスの著名な小説のことではない。黄色と黒色の派手でけばけばしい外観が人目を引く店舗へ足を踏み入れると、うず高く積まれた商品が所狭しと並べられ、迷路のような通路が広がる。日用品や化粧品、ブランド品から果ては薬、酒類、アダルトグッズまでそろう。どんな商品でも売っている。おおげさだが、「店内にないものはない」かもしれない。
ドン・キホーテ歌舞伎町店の入り口。商品が棚にぎっしりと陳列されている=2025年6月17日、東京都新宿区(ニッポンドットコム編集部撮影)
「昨日もドンキに来たし、また買い物しに来ると思う」。取材で話を聞いたインバウンド観光客の多くは口をそろえるように話した。街で「ドンキはどこですか?」と尋ねられることもしばしばある。ドンキがインバウンド観光客に人気があることは、数字が証明している。ドンキを運営するPPIH(パン・パシフィック・インターナショナル・ホールディングス)の2025年6月期上期での免税売上は、過去最高の798億円で、前年から297億円増となった。
何でもそろう店
どうしてドンキは訪日観光客に人気なのだろうか? ドンキは現在、日本国内に500近くの店舗がある。大都市はもちろん、地方都市や郊外にもくまなく出店しているが、中でもインバウンド観光客が多いのが、東京の渋谷や新宿、銀座にあるドンキだ。
筆者は、そんなインバウンド比率が高い店舗の一つ「ドン・キホーテ歌舞伎町店」を訪れた。日本有数の歓楽街である新宿・歌舞伎町の入り口。外国人観光客の需要に応えようと、訪日客向けの土産品が店内の売り場にぎっしりと詰まっている。特に人気が高いのは「抹茶」だ。タイからやってきた女性3人組は抹茶商品を手に取り、「(今回は)抹茶の粉末とお菓子を買いに来た。それから化粧品も。(ドンキがいいのは)たくさんのブランド品が混在しているところ。免税で安いのに、特に日本製のコスメは品質が保証されている」と、ドンキの魅力を語った。
日本の緑茶製品はバラエティーに富んでいる=2025年6月19日、ドン・キホーテ歌舞伎町店(筆者撮影)
アニメコーナーでは、オランダ・アムステルダムから来た23歳の男性がこう語った。「もともと東京が好きで、アニメグッズが売られている場所としてドンキを知った。買ったものは大半がアニメグッズ」。「ポケットモンスター」や「ハローキティ」、「NARUTO ―ナルト―」、「ONE PIECE」など、さまざまなアニメの関連商品が棚一面に詰め込まれており、アニメ専門ショップも顔負けする品ぞろえだ。さまざまな商品が混在し、そして種類も多い。ドンキに行けば「何でもそろう」。その使い勝手の良さが、訪日客には大きな魅力になっている。
「ポケットモンスター」のキャラクターグッズを集めたコーナー=2025年6月19日、ドン・キホーテ歌舞伎町店(筆者撮影)
あなたが望む店になる
ドンキ最大の特徴は、徹底した顧客ニーズの把握にある。ドンキが発表している資料によれば、歌舞伎町店で訪日客が最も購入する商品は「ベイク クリーミーチーズ」だという。日本ではドンキでなくとも、どこの店にでも売っているような菓子である。「抹茶」や「桜」など、日本ならではのテイストやネーミングの商品ではない。日本人にとってはありふれた菓子が売れ行き1位なのだ。
天井近くまで商品が詰め込まれた菓子コーナー。店内の通路は狭く、迷路のようだ=2025年6月19日、ドン・キホーテ歌舞伎町店(筆者撮影)
その理由は、「クリーミーチーズなのに暑い国でも溶けにくい」から。タイや台湾、韓国で大人気だというが、訪日客が「ベイク」を求めていることは日本国内にいるとなかなか見えてこない。なぜ、ドンキはこのように細かいニーズを把握できるのか。
ドンキ独特の店舗運営である「権限委譲」というシステムに秘密がある。各店舗、各売り場での売り方や販売商品などを、現場の店員が自由に決めることができるシステムだ。通常、ドンキのようなチェーン店の場合、各店の運営方法や販売商品は本部が一括して決め、全国どこでも同じような店になることがほとんどだ。しかし、ドンキはそれと正反対のアプローチを採る。各売り場の店員らが、売れ筋や来店客の様子を見て、何をどのように置いて売るのかを柔軟に決めるのだ。
ドン・キホーテ新宿店。コリアンタウンに立地し、韓国食材などが豊富に並ぶ=2025年6月17日、東京都新宿区(ニッポンドットコム編集部撮影)
それが如実に表れているのが、各商品に付けられるPOPだ。各店員が購入する客を思い描き、派手な商品POPを付ける。それらはとてもユニークな字体で、「絶対に商品を買ってもらおう」という店員の熱気が伝わってくる。
つまり、客が来店すればするほど、その店舗はどんどんと彼らを満足させるものに変化していく。この好循環が、インバウンド客を次々と吸い寄せているのだ。
SNSで広がる口コミ
こうした訪日客の「声」を反映させるドンキの努力は進化している。今後導入を予定している「マジカ グローバル」という訪日客向けのアプリは、訪れた店舗や購入商品のレビュー、率直な評価をアプリ経由でドンキ本部に送ることができる。ドンキ側はこれによって、直接的にさらに多くの客の要望を集めることができるようになる。
こうしたドンキの「デジタル戦略」の巧みさは、すでにSNSで発揮されている。前述したタイからの女性グループは「(ドンキを知ったのは)フェイスブックとTikTok。タイでは商品レビューを投稿するインフルエンサーが多く、紹介している日本の商品がドンキで売られていることを知った」と話した。イタリア・ローマから来た男性は「イタリアではドン・キホーテをほぼ誰も知らなくて、インスタで調べて日本に来る数日前に知った」という。
ドンキを訪れたことのある外国人はしばしばSNSに感想などを投稿し、「日本」と検索するとドンキの情報が表示されることも多いようだ。強烈な店舗の外観や意表を突く店内、商品POPの洪水がSNS映えしやすいのだろう。
インバウンドをさらに呼び込もうと、ドンキは自分たちの店を「日本で立ち寄るべき場所ナンバー1」にしていくとしている。その戦略は3つのフェーズからなる。旅行前の観光客にドンキの存在を知ってもらう「旅マエ戦略」、旅の途中でドンキを訪れて満足してもらう「旅ナカ戦略」、旅行後にドンキをSNSなどで知り合いに広めてもらう「旅アト戦略」だ。
ブルーノ・マーズさんとダンサーが登場する「ドン・キホーテ」のテレビCMのワンシーン(ドン・キホーテのプレスリリースから)
特に「旅マエ」、つまり「旅行する前」での認知を上げることを重視し、SNSでのプロモーションに力を入れている。ドンキは2024年、世界的アーティストであるブルーノ・マーズさんとコラボレーションしたプロモーションビデオを制作し、これが国内外で大反響を呼んだ。ブルーノさんは大の親日家であり、「ドンキが好き」ということで制作が決定したという。もしかすると、これからまた別の世界的アーティストがドンキのCMに登場するかもしれない(レディー・ガガさんもドンキが好きなのだとか)。
「ごちゃ混ぜ」の魅力
何よりも海外の人を引きつけているのは、ドンキの唯一性、「オリジナリティ」だ。「(日本以外に)ドンキのような場所はないよ。土産物から日用品まで売っている店を僕は知らない。とてもユニークだ」。歌舞伎町店にやってきたアメリカ人男性は、いかにも信じられないという感じで語った。
歌舞伎、アニメなど日本ならではの土産品を集めたコーナー=2025年6月19日、ドン・キホーテ歌舞伎町店(筆者撮影)
ドンキ店内の通路は迷路のようになっており、まるで洞窟に迷い込んで「宝探し」をしているかのようだ。予期せぬ商品との出会いがあって、「衝動買い」をしてしまう人もしばしば。ワクワクするような買い物体験ができるのだ。
こうした特徴は、日本特有の「雑居ビル」にも通じるかもしれない。米国のエコノミスト、ノア・スミス氏の著作『ウィーヴが日本を救う 日本大好きエコノミストの経済論』は、日本の魅力の1つとして「雑居ビル」を挙げている。「雑居ビル」とは、1棟のビルの中にさまざまな店が凝縮され、詰まっている「ごちゃ混ぜ」の建物だ。これは日本の街並みにもいえる。高さがバラバラな建物、電線や看板が入り乱れ、さまざまな時間が累積している、映画『ブレードランナー』のような風景。まさに「ごちゃ混ぜ」だ。そんな景観がドンキという店の中にある。
私見だが、その「ごちゃ混ぜ」に多くのインバウンド客が魅了されているのではないだろうか。もしかすると、ドンキは日本でもっとも「日本らしい」場所なのかもしれない。だとすれば、外国人観光客に人気な理由も納得がいく。
もし、海外から日本に来て行く場所に迷っている人がいれば、私はドンキに行くことを薦める。そこには欲しいものがなんでもあるし、最も「日本らしい」場所の一つでもあるからだ。もはや「日本観光はドンキで十分」なのかもしれない。
バナー写真:ドン・キホーテ歌舞伎町店の外観。24時間営業で多くの訪日外国人が訪れる=2025年6月17日、東京都新宿区(ニッポンドットコム編集部撮影、画像の一部を加工しています)
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