ゼラチンとは似て非なる物

寒天は、中国伝来の「ところてん」が元となり江戸時代に製法が生まれた、日本の発明品だ。

似た性質を持つゼラチンと混同されがちだが、原料や製法、扱い方など多くの点で異なる。

寒天はその形状から、棒、糸、粉の3種類に分けられる。棒寒天（角寒天ともいう）と糸寒天は、主に紅藻類のテングサを原料とし、煮出した液を固めた「ところてん」を凍結乾燥する伝統的な方法で作られる。煮溶かして使うのはもちろん、水で戻して搾り適当な大きさに切ったものを、サラダや汁物などに入れ、そのまま食べることもできる。

粉寒天は、テングサに加え同じ紅藻類のオゴノリなどを使うのが一般的で、工業的に製品化される。工場での食品加工や、化粧品の保湿剤、医薬品のカプセル剤など用途は広い。いずれにせよ肝心なのは、寒天は海藻からできているため食物繊維が豊富で、超低カロリーという点だ。

左から棒寒天、糸寒天、粉寒天（PIXTA）

一方、ゼラチンは豚や牛、魚など動物の骨や皮から抽出されたコラーゲンが原料。よって主な栄養素はたんぱく質で、食物繊維は含まれない。水を含まない状態で寒天と比較すると、カロリーは2倍以上だ。

つまり、似たようなデザートでも、寒天を使えばよりヘルシーに仕上がる。ブタ由来食品を避けるムスリムや、ヴィーガンも安心して食べることができる。

圧倒的な保水力がダイエットに役立つ

伝統的製法では、冬にところてんを戸外に干し、2週間ほどかけて凍結乾燥を繰り返す。そのうちに不純物が取り除かれ、無味無臭の白い物体、つまり寒天が出来上がる。乾物の状態で、成分の8～9割を食物繊維のアガロースとアガロペクチンが占める。これは食品中トップレベルの食物繊維量だ。

寒天はかつて、日本の主要な輸出品目だった。1880年代初め、ドイツのコッホは寒天培地で結核菌の純粋培養に成功。その後、イギリスのフレミングが世界初の抗生物質・ペニシリンを発見した際も、寒天培地が使われていた。いずれもノーベル賞を授与された偉大な功績だ。

実験に使われる寒天培地（PIXTA）

「だから海外では、食品というより、細菌研究の培地として知られています。近代医学の発展にこれほど貢献した寒天が日本発祥、それも江戸時代にできたって、すごいと思いませんか」

そう話すのは、内科の医師で横浜市立大学名誉教授の杤久保 修（とちくぼ・おさむ）さん。寒天の健康機能性を研究する第一人者だ。

棒寒天を手にする杤久保さん（撮影：ニッポンドットコム）

「寒天の最大の特長は、豊富な食物繊維とその特殊性です。食物繊維はメッシュ状の構造をしていますが、寒天はこの網目が非常に細かく、100倍もの水分を保持できる特長があります。ちなみにコンニャクは約30倍です」

圧倒的な保水力は、腸に入ってから本領発揮する。

「膨満感が生じるので、食べ過ぎを防ぎ、ダイエットに役立ちます。寒天は腸で吸収されず、それ自体のカロリーはほぼゼロ。いくら食べても便として出るので、太る心配もありません」

便通が整うと代謝が上がり、老廃物の排出が促されるため、健やかな肌をつくる一助にもなるという。

ブームになった「寒天ダイエット」

杤久保さんは2004年、生活習慣病に対する寒天の効果を調べるため、臨床実験を行った。76人の糖尿病患者を無作為に2つのグループに分け、食事の条件はそろえたうえで、片方のグループのみ毎夕食前に200グラム弱の寒天（粉末寒天で2グラム相当）を食べてもらう、というものだ。

3カ月後に変化を見ると、寒天を食べたグループは、もう片方に比べ、体重、体脂肪、血糖値（ヘモグロビンA1c）、総コレステロール値などの数値が改善されていた。この実験結果を共著論文として発表したところ、2005年に「寒天ダイエット」ブームが巻き起こった。

「ゲル状になった寒天の食物繊維は、腸内で糖の吸収を遅らせ、血糖値の急上昇を抑えるので、糖尿病の予防・改善につながります。胆汁酸の一部を吸着して排出する作用もあり、これは脂質異常症に有効。その後の研究で、動脈硬化や高血圧にも寒天が効果的と分かりました」

杤久保さんは30年以上、寒天を使った食事療法を患者に勧め、治療実績を上げてきた。82歳になる自身も、寒天を毎日食べて健康体を維持している。

水で煮溶かして固めた寒天（PIXTA）

「粉末寒天2グラムを200ミリリットルの水に煮溶かして固め、豆乳を150ミリリットルほどかけて、夕食の30分前に食べています。少量のハチミツを加えてもおいしいですよ」

豆乳をかけるのは、寒天に含まれないたんぱく質を補うためだ。「体内で作れない必須アミノ酸をバランスよく含むので、意識して加えています。大豆は女性ホルモンと似た働きをする成分・イソフラボンが多いことから、更年期障害に悩む女性には特に豆乳を勧めていますが、牛乳でもいいでしょう」

寒天で作ってみよう！

寒天は90度以上で溶解するので、よく煮溶かすのが肝心だ。

沸騰させて煮溶かす（PIXTA）

35～40度まで冷めると、しっかり固まる。使用量を調節すれば、フルフル食感にもできる。ゼリーと異なり、常温で固まるうえ、再加熱しない限り溶けない。こうした特徴を踏まえつつ、定番の寒天レシピを試してみよう。

＜注意点＞

• 凝固力はおよそ、棒寒天1本（8グラム）＝糸寒天（8グラム）＝粉寒天小さじ2（4グラム）。
• 棒寒天1本に対し、水分の総量400～600ミリリットルが適当（水分を減らすと硬く、増やすと柔らかく仕上がる。好みで調整）。
• 棒寒天と糸寒天はさっと洗い、10～30分、水に浸して戻す。棒はちぎってから使う。
• 冷たい物は入れたそばから固まってしまうため、人肌程度に温めてから加える。
• 酸味のある物は一緒に煮ると固まりにくいため、鍋を火から下ろし粗熱を取ってから加える。

●牛乳寒天

寒天デザートといえばこれ！ミカンなど缶詰の果物を入れるのも人気。

ミカン入り牛乳寒天（PIXTA）

材料（2～3人分）

• 棒寒天…1/2本（糸なら4グラム、粉なら小さじ1）
• 水…200ミリリットル
• 牛乳…200ミリリットル（人肌程度に温めておく）
• 砂糖…大さじ3

作り方

1. 寒天は水（分量外）で戻して搾り、棒の場合はちぎる（粉の場合は手順2から始める）。
2. 寒天を水とともに鍋に入れ、中火にかける。よく混ぜながら2分ほど沸騰させて煮溶かす。
3. 牛乳を加えたら弱火にし、砂糖を加え混ぜ、溶けたら火を止める。網でこしながら水で濡らした型に注ぎ、粗熱を取り（果物を入れる場合はここで加え）冷蔵庫で固める。

※牛乳と砂糖を入れずに同じ要領で作ると、いわゆるみつ豆の寒天になる。

●むら雲寄せ

その名は、だしに流し入れた卵が雲の集まりに見えることから。「卵寒天」「べっこう」などと呼ぶ地方もある。暑い季節や食欲のない時にもツルッと食べやすい。

むら雲寄せ（PIXTA）

材料（2～3人分）

• 棒寒天…1/2本（糸なら4グラム、粉なら小さじ1）
• だし汁…200ミリリットル
• 溶き卵…1個分
• しょうゆ…大さじ1
• みりん…小さじ1

作り方

1. 寒天は水（分量外）で戻して搾り、棒の場合はちぎる（粉の場合は手順2から始める）。
2. 寒天とだし汁を鍋に入れ、中火にかける。よく混ぜながら2分ほど沸騰させて煮溶かし、しょうゆとみりんを加える。
3. （2）をかき混ぜたところに、糸を垂らすように溶き卵を流し入れる。卵が固まり始めたら火を止める。水で濡らした型に注ぎ、粗熱を取り、冷蔵庫で固める。

●寒天みそ汁

いつものみそ汁に加えるだけで新食感！冷めて固まる前にどうぞ。

寒天みそ汁（PIXTA）

材料（2人分）

• 糸寒天…4グラム（棒なら1/2本）
• みそ汁…2人分

作り方

1. 寒天は水（分量外）で戻して搾り、棒の場合はちぎる。
2. お碗に寒天を入れ、熱々のみそ汁を注ぐ。

寒天はスーパーの乾物売り場などで手に入る。長期保存でき、常備しておけば思い立ったときにいつでも使えるのが便利だ。毎日の食生活に、気軽に寒天を取り入れてみてはいかがだろうか。

レシピ監修：杤久保 修（医師・横浜市立大学名誉教授、NPO法人市民健康長寿ネット研究所理事長）
取材・文=ニッポンドットコム編集部

バナー写真：棒寒天と寒天を使ったデザート（PIXTA）