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カンヌを驚かせた鈴木唯の才能とは? 映画『ルノワール』で主演に抜てきした早川千絵監督と探る

2022年に『PLAN 75』で長編デビューを果たした早川千絵監督の第2作。前作が後期高齢者を対象とする近未来の安楽死制度という創作的なコンセプトに基づいていたのに対し、今作は幼少期の記憶の断片から物語を紡ぎ出すという異なるアプローチをとり、大人と子どものはざまで揺れ動く少女の雄弁なまなざしをカメラで捉えていった。映画『ルノワール』。主人公フキ役の鈴木唯 © 2025「RENO...

今年5月のカンヌ国際映画祭で日本から唯一コンペティション部門に出品された映画『ルノワール』。3年前のカンヌでカメラドール(新人監督賞)の特別表彰を受けた早川千絵監督の長編第2作だ。撮影当時11歳だった主演の鈴木唯は同映画祭で「注目すべき10人の才能」に選ばれた。本人と早川監督に語り合ってもらいながら、その才能の秘密を探ってみよう。

2022年に『PLAN 75』で長編デビューを果たした早川千絵監督の第2作。前作が後期高齢者を対象とする近未来の安楽死制度という創作的なコンセプトに基づいていたのに対し、今作は幼少期の記憶の断片から物語を紡ぎ出すという異なるアプローチをとり、大人と子どものはざまで揺れ動く少女の雄弁なまなざしをカメラで捉えていった。

映画『ルノワール』。主人公フキ役の鈴木唯 © 2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners
映画『ルノワール』。主人公フキ役の鈴木唯 © 2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners

タイトルの由来は、劇中に登場するルノワールの複製画(『イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢』)。1980年代後半の郊外を舞台に、想像力豊かな11歳の少女フキ(鈴木唯)が過ごすひと夏の物語だ。がんで闘病生活を送る父・圭司(リリー・フランキー)、夫の介護と仕事に追われる母・詩子(石田ひかり)ら、様々な事情を抱える周囲の大人たちと触れ合うなかで成長する姿を描く。

詩子(石田ひかり)は病気の夫に代わって仕事に追われイライラしがちだ © 2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners
詩子(石田ひかり)は病気の夫に代わって仕事に追われイライラしがちだ © 2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners

オーディションで披露した特技

この映画の命運が、主人公フキのキャスティングにかかっていたと言っても過言ではない。そのため早川監督は「何百人もの候補者と会う覚悟でオーディションに臨んだ」という。だが、そのトップバッターとして現れたのが、当時11歳の鈴木唯だった。

早川 千絵 相手が11歳でも、作品の意味を理解してほしいと思いました。だから物語や映画のスタイルについて、最初に私から彼女に大まかな説明をしたんです。

鈴木 唯 簡単に言えば、監督自身の小さい頃の記憶をモチーフにした映画で、みたいな。

早川 「これは自分の子ども時代からインスピレーションを得た映画で、私のお父さんも病気で寝ていたんだよ」と。「お父さんはどうなったんですか?」と質問したのは唯ちゃんだったよね?

鈴木 はい。

早川 そんな話を軽くした後に、「得意なことはなんですか?」と聞いたら、唯ちゃんが「動物の鳴きまねです」って。

鈴木 猫とフクロウと馬とヤギができます!

早川 「じゃあ、とりあえず猫をやってみてくれる?」と言ったら、「いや、オススメは馬です」って。それで実際にやってみせてくれたんです。とても上手だったので、すぐに脚本に反映させました(笑)。

鈴木 馬の鳴きまねが採用されると思わなくて、ビックリ、ワクワクしました。ただ、喉の調子が悪いとできないから、喉の調子は大事。一発で決めないといけないので。

早川 唯ちゃんは、まったく物おじをしない上に、予想外のことを突然話し出したりするので、一瞬たりとも目が離せないんですよ。フキのキャラクターにとってそれが一番重要な要素だったので、まさに「フキがいた!」と。

想像力豊かなフキは独創的な作文で先生をまどわす © 2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners
想像力豊かなフキは独創的な作文で先生をまどわす © 2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners

無邪気な自分が無心になるとき

子役の「演技指導」は難しい。自然体を求めようと、カメラが回る直前にせりふを口伝えする監督もいる。今回初めて子役を起用することになった早川監督は、本やインタビューを読んで、年少の演技者とどう接するかを考えた。結論は他のキャストと変わらぬリスペクトを払うこと。鈴木にも事前に台本を渡すことにした。ただし、「家でそんなに練習しないでね」と一言添えて。鈴木もこの期待にしっかり応えた。

鈴木 せりふを覚えるためというよりは、物語を読むような感覚で台本を読んでいたので、考えさせられたり、共感したりする部分もありました。フキはすごく感受性が強い子で。自分自身も割と感受性が強いタイプだから、やりやすかったです。

早川 唯ちゃんと話しているうちに、フキのことを一番理解しているのは、きっと私と唯ちゃんだと思えました。あまり説明せずともスッとお芝居をしてくれて、「そうそう!」「なんで説明しなくても分かるの?」という感じでしたね。

監督の子ども時代にあたる1980年代が舞台であることから、当時ブームだった超能力やオカルトのテレビ番組や、専用番号に電話をかけて伝言を録音・再生できる「伝言ダイヤル」など、6歳で令和を迎えた鈴木にはなじみのないカルチャーも数多く登場する。

鈴木 実は私もUMA(未確認動物)とかUFO、都市伝説、心霊現象、そういう不思議なことに興味があって。共演の俳優さんたちに「ミステリーな体験をしたことはありますか?」って聞いていました。

早川 キャストの顔合わせで恒例の質問大会をやったのですが、唯ちゃんが毎回その質問をしてくれたので、リリーさんも、河合(優実)さんも、みんなが不思議な体験を話してくれました。

フキは同じマンションに住む久里子(河合優実)の部屋に上がり込む © 2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners
フキは同じマンションに住む久里子(河合優実)の部屋に上がり込む © 2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners

映画のあらゆる場面で、フキが言葉を発さずに見せる表情の奥深さに引き込まれる。そんな時、どんな感情が内面に渦巻いているのか。本人に尋ねると、「演技中はだいたい無心です!」との答えが返ってきた。

鈴木 意外とフキって子は何も考えてないんです。「暇だな~」とか「めんどくさいな~」とか、そういう系の子なので。たまにいくつかのシーンで直接的に感情表現することもありますけど、それ以外はほとんど「無」なんですよ。自分自身は心の中がいろんな言葉であふれているタイプなんですけど、フキは何も考えてないタイプだから。

母が仕事の研修で知り合った御前崎(中島歩)をじっと見るフキ © 2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners
母が仕事の研修で知り合った御前崎(中島歩)をじっと見るフキ © 2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners

無心と言っても「さすがに何も感じていないわけではない」という。このあたりは微妙なバランスで成り立っているらしい。

鈴木 説明するのは難しいですが、考えるよりも体が勝手に動いているタイプ。頭で考えるとガチガチになっちゃうので。フキはほとんど笑わないけど、普段の自分自身は明るくて、基本的にいつも「イエーイ!」みたいな感じなので、そこは結構違います。

早川 唯ちゃんは、本当に誰とでも臆することなく話すもんね。警備のおじさんのところにも行って、よくしゃべっていた(笑)。フィリピンで撮影したときも、エキストラの外国人に近寄って英語で話しかけていて。誰とでも仲良くなれる。すごい才能だなと思います。

『ルノワール』は日本、フランスなど6カ国の国際共同制作。フィリピンでも撮影した © 2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners
『ルノワール』は日本、フランスなど6カ国の国際共同制作。フィリピンでも撮影した © 2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners

芝居で得られる快感とは

演技を始めたのはわずか2年前。だが、カメラの前でも緊張せず常に自然体でいられるのは、赤ん坊の頃からモデルの仕事をしていたからだろう。

鈴木 子どもの頃から慣れているから、「あ、カメラだな」みたいな軽いノリでできるんです。目の前にカメラがあっても、ゆ~っくり、の~んびり、な~んにも考えずに。監督から「ここは無心でやって」と言われたわけでもなく、自分で勝手に解釈してやってました。

早川 「どうやってできるんだろう?」って、感嘆しながら見ていました。

父が雨で濡れたフキの髪や足をやさしく拭いてくれる場面がある。フキが見せるなんとも言えない笑顔が印象的だ。その場面をどういう心境で演じていたのか尋ねると、今度は驚くほど冷静な分析が返ってきた。

病床の父(リリー・フランキー)とテレパシーの練習をするフキ © 2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners
病床の父(リリー・フランキー)とテレパシーの練習をするフキ © 2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners

鈴木 意外とここで泣く人多いかもって。

早川 そんなこと考えていたんだ!(笑)

鈴木 はい。リリーさんが頭を拭いてくれるシーンで、1回ジーンとする気がして......。

早川 確かに。私も見ていてグッときたよ(笑)。

伝言ダイヤルに夢中になったフキは、大学で心理学を専攻しているという薫(坂東龍汰)に出会う © 2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners
伝言ダイヤルに夢中になったフキは、大学で心理学を専攻しているという薫(坂東龍汰)に出会う © 2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners

カメラの前で無心になれるだけでなく、役を演じる自分を俯瞰(ふかん)する視点さえも同時に持っている。天賦の才としか言いようがない。

フキは心理学に興味を抱く少女。鈴木も「人間のなかにあるいろんな心を知るのは面白いし、演技をしていて味わえる快感があるんです」と目をキラキラ輝かせて話す。その「快感」を言葉で説明するのは難しいという。

鈴木 演技をした後に足の先から「ぐわわわわわわ~」って、何かが昇ってくるんですよ。例えば寒いときにお風呂につかる瞬間、鳥肌が立って「ぐわん」って快感を味わうじゃないですか。ああいう感じです。監督からカットの声がかかってOKをもらい、自分でも「いまの最高に決まったな」と思えたときに「ぐわわわわわわ~」って(笑)。あの快感をお芝居でまた味わいたいという気持ちになるんです。

早川 そうだったんだ! 私も初めて聞きました(笑)。唯ちゃんのことは出会ったときから「表現者だな」と思っていましたが、彼女のなかにはすでにこの年齢にして“確固たる自分”というものがある。これからどうなっていくのか楽しみですね。

ヘアメイク〈早川千絵〉:名取 瞳
撮影:花井 智子
取材・文:渡邊 玲子

© 2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners
© 2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners

作品情報

  • 出演:鈴木 唯 / 石田 ひかり 中島 歩 河合 優実 坂東 龍汰 / リリー・フランキー
  • 脚本・監督:早川 千絵
  • 配給:ハピネットファントム・スタジオ
  • 製作国:日本、フランス、シンガポール、フィリピン、インドネシア、カタール
  • 製作年:2025年
  • 上映時間:122分
  • 公式サイト:happinet-phantom.com/renoir/

6月20日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショー

予告編

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