「進次郎効果」は限定的:東京都議選から参院選を展望する
東京には日本の有権者の1割以上が集中する。このため定数127の東京都議選はたびたび国政選挙の「先行指標」になってきた。自民党が過去最低の議席数に落ち込んだ6月22日の都議選から、7月20日の参院選を展望してみると──。
昨秋からの自民不調は続く
4年前の前回都議選で33議席を獲得し、最大勢力を誇っていた自民党だが、今回は落選者が続出し、追加公認した3人を含めても21議席にとどまった。これは過去最低だった8年前の記録(23議席)を塗り替えるものだ。
代わって第1党に躍り出たのは小池百合子都知事が特別顧問を務める「都民ファーストの会」だ。選挙前より5議席多い31議席を獲得した。
自民の敗因としては、まず都議会自民党による政治資金パーティー収支報告書の不記載問題が挙げられる。さらにコメの高騰など物価高に対する都民の不満が、政権党である自民への逆風を生んでいた。中央の自民党には、農水相交代に伴う一連のコメ対策で風向きが変わることへの期待があったが、当てが外れた。
石破茂首相は5月下旬、「コメは買ったことがない」発言で批判を浴びた江藤拓農水相を更迭し、後任に小泉進次郎氏を起用した。小泉新農水相は随意契約による政府備蓄米の売り渡しに乗り出し、5キロ2000円台の備蓄米がスーパーに登場して以降、内閣支持率、自民党の政党支持率は若干なりとも上向いていた。
森山裕幹事長をはじめとする自民党執行部は「コメの大消費地である東京で、コメの価格引き下げは有権者に強くアピールするはずだ」と考えていた。農政に強い影響力のある森山幹事長も、石破・小泉コンビによる米価引き下げ対策を追認した。自民党が継続して行ってきた都議選の情勢調査で、6月上旬は堅調さを示していた。
しかしそれも一時的な現象だったのだろう。最終的には都議選で「進次郎効果」が出るまでには至らず、昨秋の衆院選で自民、公明の与党が過半数を大幅に割り込んだ現実は根が深いことを改めて示した。
米国依存の政治に対する疑問も
加えて、戦後80年の今年、長く続いてきた自民党中心の政治に対する国民の眼差しが一層厳しくなっているように感じる。
戦後日本を支えてきた自民党政治の基本は、日米安保体制の下での「軽武装、経済重視」というものだった。しかし、米国で2度目のトランプ政権が誕生し、国際秩序の維持に関心を払わなくなると、米国に軸足を置いてきた自民党政治に陰りが見えてきた。
「アメリカ第1主義」を前面に掲げて、同盟国に高関税を課し、しかも安保政策を脅しや取り引きの材料にしようとする。こんな米国に追従していてどうなるの、という国民の素朴な疑問が「現状追認ではない選択肢」を求める気分を醸成しているのではないか。
都議選投票日の朝、イスラエルとイランの軍事衝突について仲介役を期待されていたトランプ大統領が、「イランの核開発施設3カ所を攻撃した」と発表した。イスラエルのネタニヤフ首相の求めに応じた軍事介入だ。
参院過半数が石破政権の命綱
国際情勢は緊迫している。それでも7月20日に投票日を迎える参院選は、コメに代表される物価高対策、さらに「給付か減税か」と内向きのテーマが焦点になるとみられる。
5キロ2000円台の備蓄米が店頭に並ぶことで、高止まりしていた銘柄米などの値段に変化が出てくるのか。そして野党の主張する消費税減税と、自民党の主張する「消費税=社会保障の要」論のどちらが国民の心に響くのか。
石破首相は消費税減税を否定していたが、「無策では参院選を戦えない」という与党内の声に押されて、国民1人当たり2万円の現金給付、子どもには2万円の追加給付などを公約に盛り込むことを決めた。4月に「カネで票を買うのか」と世間から酷評されて一度断念した現金給付を、選挙直前に蒸し返した形だ。
参院の定数は248で、自民党の現有勢力は113議席。これに公明党の27議席を加えて、与党は過半数(125)を上回る140議席を持っている。衆院が自公で過半数に届かない少数与党でも政権を維持できているのは、この参院の命綱があるからだ。
今回は改選対象の124に加えて、非改選の東京選挙区で生じた欠員1を補う合計125議席が争われる。自公の非改選議席は74なので、両党で50議席を取れば無所属の関口昌一議長を加えて過半数の125に達し、参院の命綱を保つことになる。比較的ハードルが低いと言われるが、結果が見通せているわけではない。
参院選では毎回言われることだが、全国に32ある1人区での勝敗と、比例代表での議席の伸長が結果を左右する。今回は1人区のほぼ半数で有力な野党候補が競合していることから、自公の選挙協力が機能すれば自民候補の勝機は増す。
しかし、創価学会の池田大作名誉会長が一昨年11月に死去した後、公明党の集票力は低下傾向にある。都議選でも公明は候補22人の全員当選を目指しながら、選挙前より4議席少ない19議席にとどまった。自公の蜜月関係も徐々に変質していて、山口那津男前代表の後を引き継いだ斉藤鉄夫現代表も頭を痛めている。
衆参とも少数与党なら大政変に
仮に「非改選を含め参院でも自公で過半数割れ」となれば石破首相は退陣せざるを得ない。それ以上に、衆参両院で少数与党になれば政権は極端に不安定化するから、連立与党の組み換え(補充)か、非自民勢力による政権交代か、という大政変に発展する。
一方で野党側はどうかといえば、野党第1党の立憲民主党の求心力は政権交代を実現するほど強くない。ルーツは一緒なのに最も深い溝を築いているのが国民民主党だ。
国民民主は衆院選で議席を4倍に増やした成功体験から、参院選の1人区でも積極的に候補者を擁立し、立憲民主との選挙区調整には消極的だ。ただ国民民主党は、元衆議院議員の山尾志桜里氏に国政復帰を求めて比例代表候補に内定しておきながら、SNS上の批判などを受けて公認取り消しを決めた。党のガバナンス欠如を露呈したこの出来事によって、玉木雄一郎代表には黄信号が点滅し始めている。
日本維新の会は近畿以外では勢いがなく、都議選は議席ゼロの惨敗に終わった。都市部に強かった共産党も、都議選では議席を減らし、長期低落の傾向を見せている。参院選では両党とも自分たちの議席確保が最優先で「野党統一」「野党連携」といった声はどこにもない。
こうして見ると、野党各党の要求を個別に取り込みながら匍匐(ほふく)前進を続ける石破首相のもとで、衆院は少数与党、参院は何とか与党過半数という「宙づり国会(ハングパーラメント)」が続く事態を覚悟しなくてはならないだろう。
昨年秋からの8カ月を見ると、宙ぶらりん状況の下での政権運営は、度重なる与野党協議で手間はかかるが、政治過程を可視化する契機になった。安定政権下での「お任せ政治」から脱却することも、日本の政治家と国民に求められている。
バナー写真:参議院本会議=2025年6月20日、国会内(時事)
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